第11回若手奨励賞（領域12）の受賞者及び受賞理由
第11回若手奨励賞は、
岡本隆一さん（首都大学東京大学院理工学研究科）
水野英如さん（東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻）
の2名が受賞されました。おめでとうございます。
賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
（杉田有治 第11回若手奨励賞審査委員長）
岡本隆一さん（首都大学東京大学院理工学研究科）
研究題目：ソフトマターにおける新しい溶媒和効果の発見
対象論文：
"Precipitation in aqueous mixtures with addition of strongly hydrophilicor hydrophobic solute", Phys. Rev. E 82 051501 (20 pages) (2010).
"Drag coefficient of a rigid spherical particle in a nearcritical binary fluid mixture", J. Phys. Soc. Jpn. 82, 084003 (10 pages) (2013).
"Bubble formation in water with addition of a hydrophobic solute", Eurr. Phys. J. E. 38, 72 (12 pages) (2015).
岡本隆一氏は、ソフトマターにおける新しい溶媒和効果に関する一連の理論的・解析的研究を行った。ソフトマターの研究では、高分子や液晶、コロイド、両親媒性分子などの物質を直接の対象とするが、それらは単独で存在するのではなく、水などの溶媒を必要とする。岡本氏は、これまでは脇役的な存在であった溶媒を研究の中心に据えて、これまで未解明であった現象の理論的解釈や、本質的に新しい現象の発見を数多く行っている。対象となる論文の中で、岡本氏は、二成分の混合溶媒中のコロイド粒子間の相互作用を詳細に解析し、溶媒の相分離が果たす役割を明らかにした。また、最近の論文では、疎水的な溶質によるバブル（気泡）の生成や、バブルを媒介するコロイド粒子間の相互作用に関する研究を行い、今後、基礎と応用の両面において重要な価値をもつと期待される。以上を考慮し、日本物理学会若手賞にふさわしいと判断した。
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水野英如さん（東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻）
研究題目：ガラスとナノ構造化物質の力学・熱物性の理論的研究
対象論文：
"General Constitutive Model for Supercooled Liquids: Anomalous Transverse Wave Propagation", Physical Review Letters, Vol.110, p.095901 (5pages), 2013.
"Acoustic excitations and elastic heterogeneities in disordered solids", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.111, p.11949-11954 (6pages), 2014.
"Beating the amorphous limit in thermal conductivity by superlattices design", Scientific Reports, Vol.5, p.14116 (15pages), 2015.
水野英如氏は、液体と個体の中間領域といえる「ガラス」に注目した研究をしている。ガラスはランダムな構造を持つという点では液体であり、流動性がなく剛性がある点では固体である。水野氏は、ガラスの力学・熱物性を理解するために、液体として、あるいは、固体として扱う２つのアプローチから新しい理論構築を行った。この研究において、動的不均一性と弾性不均一性の両メソスケール構造をつなぐことで、ガラスの物性を包括的に記述する理論構築を行っており、今後の発展性も期待できる。さらに、ガラスの研究を、ナノ構造化物質へと展開した独創性は高く評価されており、他の分野への波及効果も大きい。受賞対象となった論文は、ガラスの理論研究を大きく前進させるものであり、世界的にも注目されている。以上を考慮し、日本物理学会若手賞にふさわしいと判断した。
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