第12回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由

 

第12回若手奨励賞は、

芝隼人さん(東北大学金属材料研究所)

菱田真史さん(筑波大学数理物質系化学域)

望月建爾さん(ユタ大学化学科)

3名が受賞されました。おめでとうございます。

賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(藤原進 第12回若手奨励賞審査委員長)


芝隼人さん(東北大学金属材料研究所)

研究題目:大規模シミュレーションを用いた分子集合体の普遍ゆらぎの開拓

対象論文:
"Relationship between bond breakage correlations and four-point density correlations in heterogeneous glassy dynamics: Configuration changes and vibration modes", Phys. Rev. E 86, 041504 (14 pages) (2012).
"Monte Carlo study of the frame, fluctuation and internal tensions of fluctuating membranes with fixed area", Soft Matter 12, 2373-2380 (2016).
"Unveiling Dimensionality Dependence of Glassy Dynamics: 2D Infinite Fluctuation Eclipses Inherent Structural Relaxation", Phys. Rev. Lett. 117, 245701 (6 pages) (2016).

 
  芝隼人氏は、大規模分子シミュレーションにより、2次元ガラスや脂質膜の構造ゆらぎに関する基礎的な研究に取り組んできた。対象となる論文の中で、芝氏は、2次元ガラス固体においては結晶系と同様に全空間を覆い尽くすような巨大ゆらぎが起きるが、ガラス緩和はそのゆらぎに直接影響されないことを証明した。この研究成果は、乱れた低次元自由度の制御に関係するものであり、今後の展開が大いに期待される。また、脂質膜の研究では、2次元的な弾性膜のゆらぎと張力との関係を示し、表面張力の厳密な定義に関わる論争に終止符を打った。以上のことから、審査委員会は芝氏が第12回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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菱田真史さん(筑波大学数理物質系化学域)

研究題目:テラヘルツ分光法を用いたソフトマターの水和状態と自己組織化構造の相関に関する研究

対象論文:
"Long-range hydration effect of lipid membrane studied by terahertz time-domain spectroscopy", Phys. Rev. Lett. 106, 158102 (4 pages) (2011).
"Cooperativity between water and lipids in lamellar to inverted-hexagonal phase transition", J. Phys. Soc. Jpn. 83, 044801 (8 pages) (2014).
"Salt effects on lamellar repeat distance depending on head groups of neutrally charged lipids", Langmuir 30, 10583-10589 (2014).


  菱田真史氏は、ソフトマター系における水和状態の観測のためにテラヘルツ分光法を世界で初めて適用し、水和状態と自己組織化構造との相互関係の解明に取り組んできた。対象となる論文の中で菱田氏が明らかにした、リン脂質二重膜表面における長距離水和層の存在は、これまでの常識を覆すものであり大変興味深い。また、最近の論文では、水和状態の違いによって異なるリン脂質の相転移挙動や、リン脂質のラメラ構造形成におけるホフマイスター効果に関する研究を行っている。これらの研究の独創性はいずれも高く、物理学のみならず生命科学やコロイド化学、溶液化学への波及効果も大きい。以上のことから、審査委員会は菱田氏が第12回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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望月建爾さん(ユタ大学化学科)

研究題目:水の相転移に関する研究

対象論文:
"Defect pair separation as the controlling step in homogeneous ice melting", Nature 498, 350-354 (2013).
"Solid-liquid critical behavior of water in nanopores", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 112, 8221-8226 (2015).
"Influence of Cononsolvency on the Aggregation of Tertiary Butyl Alcohol in Methanol-Water Mixtures", J. Am. Chem. Soc. 138, 9045-9048 (2016).


  望月建爾氏は、分子動力学シミュレーションと理論化学的手法を組み合わせることにより、水や氷の相転移および臨界現象を分子レベルで解明する研究に取り組んできた。対象となる論文の中で、望月氏は、均質条件下での氷の融解における複雑な水素結合ネットワークの自発的崩壊および形成の分子機構を明らかにした。また、最近の論文では、カーボンナノチューブの中に閉じ込められた擬一次元空間で現れる水の固液臨界点の存在の示唆や、刺激応答性高分子の共貧溶媒効果の分子機構の解明を行っている。これらの研究は、いずれも独創性の高いものであり、他の分野への波及効果も大きい。以上のことから、審査委員会は望月氏が第12回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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