第13回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由

 

第13回若手奨励賞は、

原田隆平氏(筑波大学計算科学研究センター)

栗田玲氏(首都大学東京理学部物理学科)

尾澤岬氏(モンペリエ大学シャルル・クーロン研究所)

3名が受賞されました。おめでとうございます。

賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(吉森明 第13回若手奨励賞審査委員長)


原田隆平氏(筑波大学計算科学研究センター)

研究題目:タンパク質機能発現メカニズムを解明する分子混雑シミュレーションの実現とカスケード選択型分子動力学シミュレーションの開発

対象論文:
"Protein Crowding Affects Hydration Structure and Dynamics", J. Am. Chem. Soc. 134, 4842-4849 (2012).
"Reduced Native State Stability in Crowded Cellular Environment Due to Protein−Protein Interactions", J. Am. Chem. Soc. 135, 3696−3701 (2013).
"Parallel cascade selection molecular dynamics (PaCS-MD) to generate conformational transition pathway", J. Chem. Phys 139 , 035103 (10 pages) (2013).

 
  原田隆平氏は分子動力学(MD)シミュレーションを用いて、細胞内のいわゆる混み合いおよび蛋白質の構造探索の問題に取り組み、生体分子系の機能解明を試みている。対象となる論文の中で、原田氏は蛋白質の周りの分子環境を現実的に再現し、その環境変化が蛋白質に与える影響を明らかにした。特に分子混み合いの強さが溶媒の動力学的、熱力学的性質を制御していることを明らかにし、さらに分子混雑環境においてタンパク質の天然構造が不安定化する可能性を示した。また、蛋白質の構造探索をより効率良く実現するMDシミュレーション手法を開発し、これまでMDシミュレーションが抱えていた課題を克服し、生体機能に関係するレアイベントを抽出することに成功した。以上のことから、審査委員会は原田氏が第13回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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栗田玲氏(首都大学東京理学部物理学科)

研究題目:ソフトマターの非平衡ダイナミクス

対象論文:
"Response of Soft Continuous Structures and Topological Defects to a Temperature Gradient", Phy. Rev. Lett. 119, 108003 (5 pages) (2017).
"Close relationship between a dry-wet transition and a bubble rearrangement in two-dimensional foam", Sci. Rep. 6, 37506 (8 pages) (2016).
"Control of pattern formation during phase separation initiated by a propagated trigger", Sci. Rep. 7, 6912 (8 pages) (2017).


  栗田玲氏は、液体・液体転移を中心とした過冷却液体の研究を経て、トリガー誘起相分離の数値計算、泡の崩壊過程および温度勾配下における膜挙動の実験的研究等の非平衡下のソフトマターダイナミクスの問題に取り組んで来た。対象となる3つの論文のうち、1つめでは、空間拘束された均一ラメラ相に温度勾配をかけると低温側の膜の揺らぎが増大するという温度均一系とは全く異なる結果を見出している。2つめの論文は泡の崩壊過程のもので、泡の再配向がdry-wet転移と密接に関係している事を明らかにしている。3つめは、トリガー誘起相分離の研究で、外側に広がっていくトリガー誘起相分離によりパターン形成が制御できる事を示した。いずれも、独創的な研究であり、審査委員会は栗田氏が第13回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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尾澤岬氏(モンペリエ大学シャルル・クーロン研究所)

研究題目:高度なシミュレーション手法を用いたガラス転移研究

対象論文:
"Equilibrium phase diagram of a randomly pinned glass-former", Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 112, 6914-6919 (2015).
"Configurational entropy measurements in extremely supercooled liquids that break the glass ceiling", Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 114, 11356-11361 (2017).
"Random critical point separates brittle and ductile yielding transitions in amorphous materials", Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 115, 6656-6661 (2018).


  尾澤岬氏は、ガラス転移やジャミング転移の数値的研究に取り組んで来た。これらのガラス研究の困難は、劇的に増大する緩和時間に阻まれて、数値的に真のガラス状態を実現できないことにあると考えられている。尾澤氏は、対象となる論文の中で、過冷却液体中の粒子の一部の位置を凍結(pinning)させた系で、エントロピーの正確な評価や動的転移点の同定など、独立した3つの手法を用いてガラス転移点の存在を熱力学的に明確に示すことに成功した。また、swapモンテカルロ(MC)法を用いて、これまで到達できなかった高密度超低温領域まで系を平衡化し、配置エントロピーを計算した。これらのガラス転移そのものの研究に加え、尾澤氏は、アモルファス物質にシア応力などの外力を加えておきる降伏転移と呼ばれる現象について、swap MC法を多分散粒子系に用いて、それらの物理的機構を明らかにした。以上のことから、審査委員会は尾澤氏が第13回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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