第15回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由
第15回若手奨励賞は、
平岩 徹也さん(シンガポール国立大学 メカノバイオロジー研究所)
藤橋 裕太さん(自然科学研究機構 分子科学研究所)
John Jairo Molinaさん(京都大学大学院工学研究科 化学工学専攻)
の3名が受賞されました。おめでとうございます。
賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(木村康之 第15回若手奨励賞審査委員長)
平岩 徹也さん(シンガポール国立大学 メカノバイオロジー研究所)
研究題目:細胞骨格の力学と多細胞系ダイナミクス
対象論文:
Left-right asymmetric cell intercalation drives directional collective cell movement in epithelial morphogenesis, Nat. Commun. 6, 10074 (11pages) (2015).
Role of Turnover in Active Stress Generation in a Filament Network, Phys. Rev. Letts. 116, 188101 (5pages) (2016).
Two types of exclusion interactions for self-propelled objects and collective motion induced by their combination,Phys. Rev. E 99, 012614 (19pages) (2019).
平岩徹也氏は生体組織や細胞、細胞骨格の動力学に関した独創的な研究を行い、優れた成果を上げてきた。対象論文1では多細胞生物の組織のダイナミクスに関してキラリティの破れに基づく機構を提案し、その数理モデルで実験事実を再現した。論文2ではアクチンミオシン細胞骨格で架橋が少なくなると分子モーターの収縮応力が消失する転移があることを定量的に示した。論文3では接触遊走阻害により細胞の遊走方向が自然に揃うことを発見し、走化性の実験結果を説明することに成功した。いずれの研究成果も極めて独創性が高く、かつ実験結果を説明可能なモデルを提案しており、当該分野に対するインパクトが極めて高いと考えられる。以上のことから審査委員会は平岩氏が第15回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。
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藤橋 裕太さん(自然科学研究機構 分子科学研究所)
研究題目:量子科学技術に基づく複雑分子系における動的過程の理論的研究
対象論文:
Impact of environmentally induced fluctuations on quantum mechanically mixed electronic and vibrational pigment states in photosynthetic energy transfer and 2D electronic spectra, J. Chem. Phys. 142, 212403 (11pages) (2015).
Intramolecular Vibrations Complement the Robustness of Primary Charge Separation in a Dimer Model of the Photosystem II Reaction Center, J. Phys. Chem. Lett. 9, 4921−4929 (2018).
Generation of pseudo-sunlight via quantum entangled photons and the interaction with molecules, Phys. Rev. Reasearch 2, 023256 (7pages) (2020).
藤橋裕太氏は、凝縮相にある分子系の輸送および反応ダイナミクスとその時間分解分光スペクトルに関し、新たな洞察や知見を与える独創性の高い学際的な理論的研究を行ってきた。対象論文1では、光合成タンパク質の二次元電子分光実験で観測された長時間量子ビートをめぐる論争に決着をつけた。論文2では、緑色植物の光合成の初期電荷分離の分子機構解明し、人工光合成や太陽電池の分子設計原理を与えた。論文3では「レーザーを用いて得られる理解は、天然で起きている動的現象を1対1に反映したものか?」という問いに対する新たなアプローチとして独自の測定手法を提案した。いずれの研究も独自の方法により長年の問題に新たな進展をもたらすものであり、国際的に高く評価されている。以上のことから、藤橋氏が第15回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。
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John Jairo Molinaさん(京都大学大学院工学研究科 化学工学専攻)
研究題目:計算科学と情報科学の融合によるソフトマター物理の新展開
対象論文:
Rheological evaluation of colloidal dispersions using the smoothed profile method: formulation and applications, J. Fluid Mech. 792, 590-619 (2016).
Modeling the mechanosensitivity of fast-crawling cells on cyclically stretched substrates, Soft Matter 15, 683-698 (2019).
Learning the constitutive relation of polymeric flows with memory, Phys. Rev. Research 2, 033107 (16pages) (2020).
John Jairo Molina氏はコロイド分散系、マイクロスイマー、細胞集団、高分子レオロジーなど、ソフトマターの分野で多くの困難なテーマに取り組み、 これらの系を研究するための新しいシミュレーション手法の開発に多大な成果を挙げてきた。対象論文1では、直接数値計算による粒子分散体のレオロジー評価の定式化を実現した。論文2では、遊走細胞の力学応答を理論モデリングし、基質の力学と細胞の内部ダイナミクスを結びつけることに成功した。論文3では、機械学習を用いた粘弾性流体のマルチスケール計算を実現した。いずれの研究成果も極めて独創的な研究であり、開発された手法の汎用性は高く、当該分野の進展に対する貢献は極めて高いと考えられる。以上のことから、Molina氏が第15回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。
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