第16回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由

 

第16回若手奨励賞は、

荒井 俊人氏(東京大学大学院 工学系研究科)

佐々木 裕司氏(北海道大学 大学院工学研究院 応用物理学部門)

下林 俊典氏(プリンストン大学)

3名が受賞されました。おめでとうございます。

賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(甲賀研一郎 第16回若手奨励賞審査委員長)


荒井俊人氏(東京大学大学院 工学系研究科)

研究題目: ソフトマターの結晶化制御とエレクトロニクスへの応用

対象論文:
S. Arai, and H. Tanaka, “Surface-assisted single crystal formation of charged colloids”, Nature Physics 13, 503–509 (2017).
S. Arai, S. Inoue, T. Hamai, R. Kumai, and T. Hasegawa, “Semiconductive Single Molecular Bilayers Realized Using Geometrical Frustration”, Advanced Materials 30, 1707256 (2018).
S. Arai, K. Morita, J. Tsutumi, S. Inoue, M. Tanaka, and T. Hasegawa, “Layered-Herringbone Polymorphs and Alkyl-Chain Ordering in Molecular Bilayer Organic Semiconductors”, Adv. Funct. Mater. 30, 1906406 (2020).

 
  荒井氏は、大学院生時代に学んだ高分子溶液や荷電コロイドに関する実験(主に顕微鏡観察)と計算機シミュレーションをベースに、現在はソフトマター物理を活かしたプリンテッドエレクトロニクスの研究を行っている。対象論文の一つは、シミュレーションにより、表面におけるコロイド粒子の核生成・結晶化現象に係る重要な知見を与えたものである。他の2論文は、有機分子の溶液からの結晶成長の実験の論文で、実際の高性能有機半導体の製作に結びつく結果である。同氏は、実験と計算の両方で高い能力をもち、さらに応用研究のセンスを備えた研究者である。筆頭著者としてインパクトファクターの高い複数のジャーナルへの出版実績もあり、研究業績には特筆すべきものがある。以上の理由により、同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した。


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佐々木裕司氏(北海道大学 大学院工学研究院 応用物理学部門)

研究題目:液晶におけるトポロジカル欠陥の自己組織化を用いた制御

対象論文:
Y. Sasaki, V.S.R. Jampani, C. Tanaka, N. Sakurai, S. Sakane, K.V. Le, F. Araoka, and H. Orihara, “Large-scale self-organization of reconfigurable topological defect networks in nematic liquid crystals”, Nature Communications 7, 13238, (2016).
Y. Sasaki, M. Ueda, K. V. Le, R. Amano, S. Sakane, S. Fujii, F. Araoka, and H. Orihara, “Polymer-stabilized micro-pixelated liquid crystals with tunable optical properties fabricated by double templating”, Advanced Materials 29, 1703054 (2017).
Y. Sasaki, J. Takahashi, S. Yokokawa, T. Kikkawa, R. Mikami, and H. Orihara, “A general control strategy to micropattern topological defects in nematic liquid crystals using ionically charged dielectric surface”, Advanced Materials Interfaces 8, 2100379 (2021).


  佐々木氏は、大学院生時代から一貫して液晶の実験的研究(精密熱測定、電場下の偏光顕微鏡観察など)を行っている。提出した論文は3報ともにネマチック相におけるトポロジカル欠陥に関するものである。電場印加により欠陥が自発的にパターン形成することを見出し、それが界面高分子の厚みや電荷によってどのように変化するかを丁寧に調べている。大変興味深く、独創性の高い、先駆的な研究成果を得ており、国際的にも十分に認知されている。液晶のトポロジカル欠陥の自己組織化、制御は基礎研究のみにとどまらず、応用的研究においても重要なテーマであり評価できる。以上の理由により、同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した。


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下林俊典氏(プリンストン大学)

研究題目:液液相分離によって駆動される細胞内分子集合体の構造とダイナミクス

対象論文:
S. F. Shimobayashi, Pierre Ronceray, David W. Sanders, Mikko P. Haataja, and C. P. Brangwynne, “Nucleation landscape of biomolecular condensates", Nature, 599, 503-506 (2021).
S. F. Shimobayashi*, and Y. Ohsaki, “Universal phase behaviors of intracellular lipid droplets", PNAS, 116, 25440–25445, (2019).
S. F. Shimobayashi*, M. Ichikawa and T. Taniguchi, “Direct observations of transition dynamics from macro- to micro-phase separation in asymmetric lipid bilayers induced by externally added glycolipids", EPL, 113, 56005, (2016).


  下林氏は、生物物理分野の実験研究者である。国内で生物物理の研究に取り組んだ後、現在プリンストン大で細胞内相分離現象について実験的な手法で研究に従事している。細胞内相分離は最近注目されているテーマであり、その形成過程を明らかにした研究は高く評価できる。脂肪滴の液晶の研究は独自性が高い。また、脂質膜における相分離の研究は実験だけでなく、シミュレーションも自身で行っており、研究手法の幅も広く、高く評価できる。この他に、DNA、コーヒーリングについても興味深い成果を挙げており、研究範囲も広い。筆頭著者としてインパクトファクターの高い複数のジャーナルに論文の出版実績があり、特にプリンストンでの研究業績には特筆すべきものがある。以上の理由により、同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した。


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