第17回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由

 

第17回若手奨励賞は、

池田 晴國 氏(学習院大学 理学部 物理学科)

植松 祐輝 氏(九州工業大学 情報工学研究院 物理情報工学研究系)

作道 直幸 氏(東京大学 大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻)

の3名が受賞されました。おめでとうございます。

賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(北尾彰朗 第17回若手奨励賞審査委員長)

 


池田 晴國 氏(学習院大学 理学部 物理学科)

研究題目: ガラス転移とジャミング転移の数値シミュレーションと平均場理論による研究

対象論文:

·       Mean field theory of the swap Monte Carlo algorithm Harukuni Ikeda, Francesco Zamponi, and Atushi Ikeda J. Chem. Phys., 147 (23), 234506, (2017).

·       Universality of jamming of nonspherical particles, C. Brito, Harukuni Ikeda, Pierfranceco Urbani, Matthieu Wyart, and Francesco Zamponi, Proc Natl. Acad. Sci. U.S.A., 115 (46), 11736 (2018).

·       Jamming below upper critical dimension, Harukuni Ikeda Phys. Rev. Lett., 125, 038001 (2020).

 
  池田氏は、過冷却液体におけるガラス転移と、粉体等の非熱的な系で見られるジャミング転移についての研究を行ってきた。論文1ではSwap Monte Carlo (SMC)をガラス転移の研究に応用することで、動的なルールが本質的な役割を果たすことを理論的に明瞭に示したことで注目を集めた。論文2では非球形粒子のジャミング転移におけるの臨界指数を計算することに成功し、論文3では上部臨界次元より下の次元でのジャミング転移の研究を行い、一次元系では次元や3 次元の場合とは異なる臨界指数が表れることを示した。オリジナリティーの高い研究成果を得ており,研究コミュニティーにおける国際的な評価を確立しつつある。以上の理由により、同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した。

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植松 祐輝 氏(九州工業大学 情報工学研究院 物理情報工学研究系)

研究題目:溶液界面の化学物理と流体力学の研究

対象論文:

·       Yuki Uematsu, Douwe J. Bonthuis, and Roland R. Netz, Charged Surface-Active Impurities At Nanomolar Concentration Induce Jones-Ray Effect, J. Phys. Chem. Lett. 9, 189–193 (2018).

·       Yuki Uematsu, Douwe Jan Bonthuis, and Roland R. Netz, Nanomolar surface-active charged impurities account for the zeta potential of hydrophobic surfaces, Langmuir 36, 364-3658 (2020).

·       Electrophoretic mobility of a water-in-oil droplet separately affected by the net charge and surface charge density, Yuki Uematsu and Hiroyuki Ohshima, Langmuir 38, 4213-4221 (2022).


 
 植松氏は、溶液界面の化学物理と流体力学の研究において成果を上げている。論文1と2では、表面張力が電解質濃度に関して極小を持つというジョーンズ・レイ効果の原因と、疎水性界面における表面電荷の起源の解明に取り組んでいる。レイ・ジョーンズ効果の起原が不純物によるものであると結論した研究は論争を呼ぶインパクトがあるもので,他のグループの後続研究を促した。論文3では、疎水性界面を持ったWater-in-Oil エマルションにおいて、電気泳動移動度の決定機構が、固体粒子やOil-in-Water エマルションとは大きく異なることを明らかにした。質の高い理論研究を推進しており研究者としての力は高く評価できる。以上の理由により、同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した。


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作道 直幸 氏(東京大学 大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻)

研究題目:ゴムやゲルの基礎的な物理法則の発見と解明

対象論文:

·       Exactly solvable model for a velocity jump observed in crack propagation in viscoelastic solids, Naoyuki Sakumichi and Ko Okumura, Scientific Reports 7, 8065 (2017).

·       Universal Equation of State Describes Osmotic Pressure throughout Gelation Process, Takashi Yasuda, Naoyuki Sakumichi (co-first author), Ung-il Chung, and Takamasa Sakai, Physical Review Letters 125, 267801 (2020).

·       Negative energy elasticity in a rubberlike gel, Yuki Yoshikawa, Naoyuki Sakumichi (co-first author), Ung-il Chung, and Takamasa Sakai, Physical Review X 11, 011045 (2021).


  作道氏は、広い物理学の分野の研究を生かして、ゴムやゲルなどの法則について研究を行なってきた。論文1ではゴムの亀裂進展にみられる速度ジャンプをシンプルなモデルで解析し、亀裂先端領域のガラス化が重要であることを見出している。論文2では、ゲル化による保水力の低下について、物質の種類に依らず、共通のユニバーサルな物理法則で説明できることを示した。論文3では高分子ゲルのずり弾性率を多くの物質に対して注意深く整理することより負のエネルギー弾性がその理解に重要であることを提唱している。一連の研究は、独創的であり、高く評価できる。以上の理由により、同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した。