第18回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由
第18回若手奨励賞は、
永井 哲郎 氏(福岡大学理学部)
樋口 裕次氏(九州大学)
藪中 俊介氏 (日本原子力研究開発機構)
の3名が受賞されました。おめでとうございます。
賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(栗田 玲 第18回若手奨励賞審査委員長)
永井 哲郎氏(福岡大学理学部)
研究題目:新規動的モンテカルロ法と大規模分子動力学シミュレーションによる不均一系における物質輸送の研究
対象論文:
・ T. Nagai and S. Okazaki, “Global diffusion of hydrogen
molecules in the heterogeneous structure of polymer electrolytes for fuel
cells: Dynamic Monte Carlo combined with molecular dynamics calculations,” The Journal of Chemical Physics 157, 054502 (2022).
・ T. Nagai, A. Yoshimori and S. Okazaki, “Dynamic Monte Carlo calculation
generating particle trajectories that satisfy the diffusion equation for
heterogeneous systems with a position-dependent diffusion coefficient and free
energy,” The Journal of Chemical Physics 156, 154506
(2022).
・ T. Nagai, S. Tsurumaki, R. Urano, K.
Fujimoto, W. Shinoda, and S. Okazaki, “Position-dependent diffusion constant of molecules in the
heterogeneous systems as evaluated by the local mean squared displacement,” Journal of Chemical Theory and Computation 16, 7239–7254
(2020).
永井氏は,不均一な溶媒内で生じる分子拡散による物質の輸送機構を解明するために,手法開発から大規模計算まで行った.全原子シミュレーションにより位置依存の拡散係数と自由エネルギー地形を求めて,拡散方程式を満足する動的モンテカルロ法を実施し,物質輸送を研究.位置に依存した拡散係数を求める方法の開発.ミクロ相分離構造を持つ高分子電解質膜のガス分子の透過率を実験と定量比較可能なレベルで実現した.方法論の開発も含まれていて興味深い.ごく最近まで着実に成果を上げており,今後の活躍が期待できる.以上の理由により,同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した.
樋口 裕次氏(九州大学)
研究題目:分子シミュレーションによるソフトマターの構造・物性の理解
対象論文:
・ Y. Higuchi, Y. Asano, T. Kuwahara, and M. Hishida, “Rotational Dynamics of Water at Phospholipid Bilayer Depending on
the Head Groups Studied by Molecular Dynamics Simulations”, Langmuir 37, 5329–5338 (2021).
・ Y. Higuchi, K. Saito, T. Sakai, J. P. Gong,
and M. Kubo, “Fracture
Process of Double-Network Gels by Coarse-Grained Molecular Dynamics Simulation",
Macromolecules 51, 3075–3087 (2018).
・ Y. Higuchi and M. Kubo, “Deformation and Fracture Processes
of a Lamellar Structure in Polyethylene at the Molecular Level by a
Coarse-grained Molecular Dynamics Simulation”,
Macromolecules 50, 3690–3702(2017).
樋口氏は,高分子,ゲル,両親媒性分子などのソフトマター物質の構造と物性について,MDを中心としたシミュレーション手法によって広く研究を展開し,実験,現象をシミュレーションで再現,さらにはそのモデル化に成功し,研究のオリジナリティも十分に高いものが認められる.結晶性高分子固体や二重ネットワークゲルの変形,破壊という巨視的な現象を扱っている一方で,脂質分子の水和水の回転緩和というミクロな現象を全原子モデルで解析しており,研究対象と手法の幅広さには特筆すべきものがある.以上の理由により,同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した.
藪中 俊介氏(日本原子力研究開発機構)
研究題目:ソフトマター、アクティブマターにおける相転移、分岐現象の連続体理論による研究
対象論文:
・ S. Yabunaka and Y. Fujitani, “Drag coefficient of a rigid
spherical particle in a near-critical binary fluid mixture, beyond the regime
of the Gaussian model”, Journal of Fluid Mechanics,
vol. 886, A2 (2020).
・ S. Yabunaka and A. Onuki, “Electric double layer composed of an
antagonistic salt in an aqueous mixture: Local charge separation and surface
phase transition”, Phys. Rev. Lett 119 118001 (5)
(2017).
・ S. Yabunaka and B. Delamotte, “Surprises in the O (N) models:
nonperturbative fixed points, large N limit and multi-criticality”, Phys. Rev. Lett. 119 191602 (2017).
藪中氏は,壁近傍での電気二重層を考慮したコロイドの相転移現象,吸着を加味したコロイドの抵抗係数,摂動繰り込み群では記述不可能な分岐現象の理論的記述のモデル提示をした.液液相分離の臨界点近傍の混合液体を媒質とした系は,臨界現象に特徴的な相関長に加えて塩では長距離の静電相互作用,コロイド粒子では粒子サイズという別の長さスケールが共存する系であり,応募者は理論的手法を駆使して特徴的な電気二重層構造や抵抗係数の挙動という物理的に興味深い結果を得ている.手がけている分野は多岐に渡っており,アクティブに活動しており,領域12への貢献度も大きい.以上の理由により,同氏を若手奨励賞受賞候補者として選考した.