第4回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由
第4回若手奨励賞は、
古川亮氏(東京大学生産技術研究所基礎系部門)
水野大介氏(九州大学高等研究機構)
の2名が受賞されました。おめでとうございます。
賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
古川亮氏(東京大学生産技術研究所基礎系部門)
研究題目:ソフトマター・液体・ガラス系における新規な輸送現象の発見
対象論文:
"Viscoelastic effects on hydrodynamic relaxation in polymer solutions",
A. Furukawa, J. Phys. Soc. Jpn, 72, 209-212 (2003)
"Violation of the incompressibility of liquid by simple shear flow",
A. Furukawa, H. Tanaka, Nature, 443(7110), 434-438 (2006)
"Inhomogeneous flow and fracture of glassy materials",
A. Furukawa, H. Tanaka, Nature Materials, 18 (7), 601-609 (2009)
高分子溶液における非局所的輸送現象と臨界異常への影響は、ソフトマター物理学における重要な未解決問題であった。これまでに通常の濃度拡散モード(縦モード)は2流体モデルにしたがって土井と小貫らによって理論的に定式化され、高分子溶液のダイナミクスに対する記述はほぼ満足のいく段階にあった。しかし、臨界点近傍での粘性輸送やStokes-Einstein関係などの記述には問題があった。古川氏は、縦変形モードに加えて横変形モードも考慮し2流体モデルを発展させることにより問題を解決した。そして、ソフトマターにおいては動的階層性が輸送現象に決定的な影響を与えることを示した。一方、古川氏は単純せん断下での流体の新しい不安定機構、物質の破壊機構の提案をした。これは体積変形を伴わない単純せん断変形は密度揺らぎとは結合しないという従来の流体力学における常識を覆し、粘性係数が密度に強く依存する場合は、密度揺らぎによる粘性応力の不均一性が更なる密度揺らぎの増大をもたらすというまったく新しい理論である。この知見はガラスの破壊現象などの物理学的本質を理解するためにも拡張された。さらに物質の破壊現象が高分子溶液系にみられる流動誘起相分離現象と共通の機構を持つことも明らかにした。領域12若手賞審査委員会は、これらの業績から判断して、古川氏の研究は、インパクト、独創性、先見性、発展性などにおいて、本賞を受賞するにふさわしいと判断した。
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水野大介氏(九州大学高等研究機構)
研究題目: 生き物の非平衡力学物性
対象論文:
"Nonequilibrium mechanics of active cytoskeletal networks",
D. Mizuno, C. Tardin, C.F. Schmidt, F.C. MacKintosh, Science, 315, 370-373
(2007)
"High resolution probing of cellular force transmission",
D. Mizuno, R.G. Bacabac, C. Tardin, D. Head, C.F. Scmidt, Phys. Rev. Lett..
102, 168102 (2009)
生命現象は生体構成要素であるソフトマターの非平衡挙動と考えることができ、これを定量的に記述することが物理学の重要研究課題となっている。生命現象の一つの単位である細胞は、硬いタンパク質繊維からなる細胞骨格とモータータンパク質による力発生が複雑に絡み合った非線形・非平衡系だるが、実験的・理論的アプローチが困難でありった。水野氏は、アクチン(細胞骨格)、架橋剤、ミオシン(モータータンパク質)からなる細胞骨格のin vitroモデルシステムを設計し、細胞内部の力学的非平衡状態を再現した。また、Active-Passiveマイクロレオロジーと呼ばれる新しい実験的手法を開発し、システムの非平衡度を定量化することに成功した。モデルシステムにおける力学的特性と非平衡度の比較から、細胞内における非平衡・非線形動力学の詳細を明らかにした。これらの研究により得られたアプローチは、分子モーター等の分子部品の動作機構を周囲の溶媒との相互作用を含めて研究する手段であり、生きている状態の細胞に直接応用することで生命現象を理解する上で極めて有用である。領域12若手賞審査委員会は、これらの業績から判断して、水野氏の研究は、インパクト、独創性、先見性、発展性などにおいて、本賞を受賞するにふさわしいと判断した。
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